( piece of nothing* 003 ) 真実は、ことばの片隅にある
「『譲ってくれ、頼む。』って。会社の方針に賛同できない部下に対して、俺はそう伝えている。」
取引先の社長が、そんなようなことを話してくれた。
「譲ってくれ」というのは、絶妙なことば選びだと思う。
「これをやってほしい」と、自分の考えとは違うことを言われたら、社員はただ反発したくなる。
でも、
「これをやってほしい、(あなたの考えは違うのは重々承知だけど、その上で、そこはどうか)譲ってほしい」といわれたら、「(仕方ない)じゃあ、譲りますよ」と、ちょっとカッコつけたくなる。
さらに言うと、ちょっとカッコつけられるという、いわば逃げ道を、社長として、ちゃんと意図して与えてあげているのかもしれない。(いや、絶対そうだ。)
日本語というのは特に、文脈に真実が隠れている言語なんだなと、つくづく思う。
そして、ことばの細部の細部の、なんとも片隅に秘められた真実を、正確に把握してコミュニケーションをはかろうとする人は、魅力的だ。
yuico *